在宅医療アドバイス


専門職種各エキスパートからのアドバイス

SCD・MSAの理学療法

国立病院機構 箱根病院 神経筋・難病支援センター
理学療法士長  丸山 昭彦様

1991年3月 筑波大学理学療法学科卒業。
1991年に理学療法士免許を取得し、2002年に独立行政法人国立病院機構に入職、現在に至る。

<出演>
清水 香野音様、野沢 未央様、大戸 恵介様、杉本 吉隆様、加藤 友記様、
大塚 裕美様


理学療法(PT)では、患者さんが起き上がったり、立ち上がって歩くといった、基本動作能力の向上のための運動療法や、ご家族の介助方法、呼吸リハビリテーション、日常生活のための補助具の選び方や使用方法、住宅改修のポイントなどのアドバイスを行っています。


運動療法の一例

運動失調は、日常生活の中ではバランス障害として現れることが少なくありません。このためバランスを維持・向上させるリハビリテーションも大切です。

具体的には、四つん這い、膝立ち、立位など、バランスの取りにくい姿勢で重心移動の練習をします。これは、筋力のトレーニングにもなります。

<仰向けでの骨盤の運動>
1) ブリッジ運動

2) 回旋運動

<四つ這いでのバランス練習>

<膝立ち~片膝立ち練習>

<座位バランス練習>前方への重心移動

<スクワット運動>

<立位バランス練習>
前後へのステップ練習

左右方向への重心移動

<歩行練習>

ノルディックウォークのように意識して大きく腕をふり、大股でももを上げて歩くように行います


*運動療法を行う上での注意点
1.起立性低血圧の対策

1) 急激に起きたり、立ちあがることは避ける。
2) 弾性包帯、弾性ストッキングの使用
3) 起きあがり、立ちあがり前に、足首の曲げ伸ばしをくり返す。

2.転倒に注意し、手すりなどを使用したり、安全な場所で行う。
3.疲れない程度の量を毎日行う。

運動失調は、症状の現れ方が病型や進行度によって違い、個人差もかなりあります。そのため、リハビリテーションは一人ひとりに応じたメニューを作り、進めていくことが大切です。ここでは、運動療法の一例をご紹介いたしましたが、実際に行う場合は、担当の理学療法士とよく相談していただき、何を目標として、どのような体操を、どのように、どのくらい行ったらよいかアドバイスを受けてください。

※また、本サイトにも、『在宅リハビリテーションアドバイス(監修:社会医療法人 大道会 森之宮病院 院長代理 宮井 一郎 先生)』にて各々の運動療法を動画で解説していますので、是非ご参照ください。


呼吸リハビリテーション

SCDの患者さんは咳の力が弱くなったり、タイミングの調整が難しく、風邪を引いたときに痰をうまく出せなかったりします。また、誤嚥して気管や肺に入ったものを出すのが難しいことがあるため、肺炎になってしまうということも多いです。
今回、肺炎予防、治療のための一つである気道粘液除去装置を用いた呼吸リハビリテーションをご紹介します。

この機械の原理は、気道に陽圧をかけて肺に空気をたくさん入れた後に、陰圧で吸引するように息を吐き出させることで、咳の介助をして、気道内分泌物を除去するのを助けます。

この機械は、気胸といって肺が破れていたり、膿疱といって袋ができていて肺が破れやすかったりする患者さんには、使用できなかったり、注意して使わなければいけません。その際は、実際に使用する前に、レントゲンを撮ったり、CTを撮ったりして、確認をしてから使う必要があります。
また、使用に当たってはドクターの処方と指示をもらって行う必要があります。
呼吸リハビリテーションには、ご紹介しました気道粘液除去装置を用いた方法以外にもいくつかの方法があります。実際に、呼吸リハビリテーションの必要性も踏まえご相談ください。


日常生活補助具のアドバイス

1)杖

失調症への対応の場合、体重を杖に預ける目的ではなく、重心が揺れた時などバランスを得るために杖を使用します。比較的体から離して杖を突いたり、両手で2本の杖を使うと安定します。

2)歩行器

実際にどういった時に、どこで使用するかを考慮して選びます。一般的に4輪タイプのものは支持面が広く安定し、手元でブレーキを調節しながら歩行できます。歩行器だけが先行して滑っていかない物、安全でおもりを入れられる、荷物入れがある物を選びましょう。

3)車椅子

車椅子には、大きく分けて、普通型・介助型・リクライニング型・電動アシスト型などがあり、患者さんの運動機能や、使用目的、使用場所、介助者の状態などを考慮して選定します。車椅子を使用する際は使用方法や、ベットから車椅子への安全で安楽な介助法のアドバイスを受けてください。


環境調整のアドバイス

安全に移動できるような生活動線や室内レイアウトの指導、手すりの設置や段差解消法、さまざまな福祉機器のアドバイスを行います。将来の病状の進行なども考慮してアドバイスを受けてください。

(原稿執筆 2016年7月)