SCD・MSA診療の概念・指針

SCD・MSAの病型について

脊髄小脳変性症(SCD)とは、小脳、脳幹、脊髄などにおける特定の神経細胞群が徐々に脱落し、変性することにより生ずる神経変性疾患です。さまざまなサブタイプからなり、遺伝性の有無や障害部位などにより分類されます。分類法の一つとして「孤発性」すなわち非遺伝性のものと、「遺伝性」に分ける考え方があります。また、障害部位により小脳のみが障害されている「小脳障害型」と、小脳を含む多系統の神経が障害されている「多系統障害型」に大別することができます。SCDの病型の分類の一例を図1に示します。


SCDの病型の概念(分類の一例)

診断の流れ
SCDの病型の概念(分類の一例)
SCD

遺伝性の有無

 
遺伝性SCD

遺伝形式

孤発性SCD(非遺伝性)

障害されている神経系の種類

 
常染色体劣性遺伝性
常染色体優性遺伝性
   
 
  • フリードライヒ失調症
  • ビタミンE単独欠乏性失調症
  • アプラタキシン欠損症
  • セナタキシン欠損症
  • シャルルヴォア-サグエ型痙性失調症
  • 脊髄小脳失調症1型(SCA1)
  • 脊髄小脳失調症2型(SCA2)
  • 脊髄小脳失調症3型(SCA3)
  • 脊髄小脳失調症6型(SCA6)
  • 脊髄小脳失調症31型(SCA31)
  • 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症
皮質性小脳萎縮症
多系統萎縮症(MSA)

主症状

  • オリーブ橋小脳萎縮症
  • 線条体黒質変性症
  • シャイ・ドレーガー症候群

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孤発性SCD

SCD全体の約70%を占めています。

多系統萎縮症(MSA)

小脳を含む多系統の神経系が障害されている疾患群で、孤発性SCDの多くを占めます。
小脳症状、パーキンソン症状、自律神経症状、錐体路症状などがみられ、これらのうち、どれが最も強くあらわれるかにより「オリーブ橋小脳萎縮症」、「線条体黒質変性症」、「シャイ・ドレーガー症候群」に細分類されます。

  • 小脳症状が優位 → オリーブ橋小脳萎縮症
  • パーキンソン症状が優位 → 線条体黒質変性症
  • 自律神経症状が優位 → シャイ・ドレーガー症候群

従来、「オリーブ橋小脳萎縮症」、「線条体黒質変性症」、「シャイ・ドレーガー症候群」は独立疾患として扱われていましたが、以下の知見が明らかとなったため1つの疾患群として考えられるようになりました。

  • 小脳症状、パーキンソン症状、自律神経症状が共通して認められる。
  • 組織所見において、小脳・脳幹の萎縮など系統的な萎縮が共通して認められる。
  • 中枢神経系の髄鞘形成細胞であるオリゴデンドログリア細胞内に、αシヌクレインからなる特徴的な封入体(グリア細胞質内封入体GCI)が共通して認められる。

皮質性小脳萎縮症

小脳のみが障害されている疾患群で、純粋な小脳症状(運動失調)を呈します。


遺伝性SCD

SCD全体の約30%を占めています。遺伝形式により「常染色体優性遺伝性」と「常染色体劣性遺伝性」に分けられ、日本では常染色体優性遺伝性が大部分を占めています。

常染色体優性遺伝性

原因遺伝子が判明したものから順に番号が付けられ、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)・・・などとよばれます。この他、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症が知られています。頻度としては、SCA3/マシャド・ジョセフ病、SCA6、SCA31、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などが多くみられます。
障害部位に着目すると、SCA6、SCA31は小脳障害型、SCA1、SCA2、SCA3/マシャド・ジョセフ病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などは多系統障害型です。

常染色体劣性遺伝性

日本では非常に稀です。フリードライヒ失調症、ビタミンE単独欠乏性失調症、アプラタキシン欠損症、セナタキシン欠損症、シャルルヴォア-サグエ型痙性失調症などが知られていますが、日本人には遺伝子診断で確定されたフリードライヒ失調症は報告されていません。


<参考>障害部位に着目した分類
<参考>障害部位に着目した分類
SCD

障害部位

 
小脳障害型
多系統障害型
孤発性SCD
皮質性小脳萎縮症
多系統萎縮症
遺伝性SCD
SCA6、SCA31など

SCA3/マシャド・ジョセフ病
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症
SCA1、SCA2など

・障害部位に着目した分類をPDFでダウンロード


SCDの原因・機序

従来、SCDにおける神経変性の原因は不明とされていましたが、最近では原因や機序が解明されつつあります。

病型 主な原因・機序
孤発性 多系統萎縮症
  • 小脳を含む多系統の神経の変性・萎縮
  • αシヌクレイン*蛋白からなるGCIがオリゴデンドログリア細胞内に認められ、病態形成に関与している可能性が考えられている。

*シヌクレイン:
パーキンソン病の神経細胞内に見られる封入体(レビー小体)の成分としても注目されている。

皮質性小脳萎縮
  • 小脳の神経の変性・萎縮
遺伝性 優性遺伝性
  • 遺伝子変異
    • 翻訳領域におけるCAGリピート伸長(遺伝子内のシトシン[C]、アデニン[A]、グアニン[G]の3つの塩基の繰り返しが、正常の2~3倍に伸長)。異常タンパク質の蓄積により神経細胞の機能を障害。
    • 非翻訳領域におけるCTGリピート伸長(T:チアミン)
    • イントロンにおけるATTCTリピート伸長
    • 点変異
劣性遺伝性
  • 遺伝子異常(ミトコンドリア機能異常、DNA修復機構の異常などを惹起)

監修:国立精神・神経医療研究センター 理事長・総長 水澤英洋先生