在宅医療アドバイス


SCD・MSA患者さんの災害時の対応

監修:国立病院機構 静岡富士病院 院長  溝口 功一先生

自助

1)自宅の安全確保

暮らしている住宅の安全性はいかがでしょうか?

平成12年以前に建てられた住宅は、現在の耐震基準を満たしていないことがありますので、ご自宅の耐震診断、そして改修などが必要になることがあります。

家具の固定、落下防止、ガラスの飛散防止などを行いましょう。

DIG(Disaster Imagination Game;災害図上訓練)などで、ご自宅の中で安全な部屋を確認してもいいでしょう。DIGはそれぞれの地域にある防災センターなどで、使用方法などを説明してもらってから試してください。

自宅の安全はすべての方に共通する課題です。

2)必要物品の準備・備蓄

3日以上、できれば1週間の食料と水(1人あたり3ℓ)を確保し、取り出せるところに保管してください。お薬、医療機器や医療・衛生用品の予備を最低1週間分準備しましょう。

非常持ち出し用品として、薬剤等は夜間でもわかるよう蛍光テープを貼ったリュックサックに入れ、枕元などすぐに持ち出せるところに保管してください。

避難のための情報収集には、停電時にも使えるようなラジオなどを準備しましょう。合わせて、懐中電灯、乾電池、ガソリンなどの準備も行ってください。

3)安否確認と連絡方法

災害時には、携帯電話は繋がらないことが多いので、メールやSNS(Line®など)での連絡、あるいは、災害伝言ダイヤルなどの利用にも慣れておきましょう。また、スマートフォンでは災害用安否確認アプリなどが手に入りますから準備するのもいいでしょう。

まず、ご家族で安否確認の方法を確認し合ってください。そして、日頃、支援してくださっているケアマネジャーさん、訪問看護師さん、ヘルパーさん達とも連絡できるようにしておきましょう。自宅にとどまる場合も、避難する場合も、SCD・MSAの方達に必要な薬剤や医療機器・用品が不足した場合に援助を求めるためにも、連絡を取り合うことが重要です。かかりつけ医療機関、ケアマネジャーさん、訪問看護師さん、ヘルパーさんなどの電話番号や連絡方法は、リストにして、わかりやすいところに貼っておくとよいでしょう。また、電気を使う医療機器を使用している場合には、医療機器取扱業者や電力会社の連絡先も記載しておきましょう。

4)避難

災害の種類によって早急に避難が必要な場合と、少し時間に余裕がある場合があります。たとえば、水害などでは避難準備・高齢者等避難開始が発令されたら、移動が困難な方は避難を開始します。停電では、電気を必要とする医療機器を使っている方の場合には、外部バッテリー等の予備電源がなくならないうちに避難しなければなりません。しかし、水害の場合より少し時間に余裕があります。一方、地震のあとの津波の場合、地域によっては津波警報が発令された段階では遅い場合があります。地震がおこったら、まず避難行動に移らなければなりません。

したがって、この災害ではどのタイミングで避難を開始するといった条件設定が大切です。地域でおこりやすい災害を考慮して、設定しておきましょう。しかし、実際には、判断することは難しいので、災害の情報を聞きながら早めの避難を心がけましょう。

地域で行われている避難訓練に参加してみましょう。また、歩行できる方は、避難所まで歩いてみてもいいでしょう。避難所の場所を知ることとともに、移動時間、段差などの道路の状態がわかり、避難の際、役立ちます。

避難を援助してくれる方はいらっしゃいますか?車椅子での移動が必要な場合には、介護者が必要なことがあります。いつも介護してくれる介護者以外に、援助してくれる人を頼んでおきましょう。

避難する場合には「互助」が大切です。みなさんの状態を隣近所の方に知ってもらっていると、近所の方達も避難を援助してくれるはずです。ですから、日頃から、移動が難しいことを知ってもらうことも大切です。また、自宅にとどまる場合も「互助」は大きな手助けになります。阪神淡路大震災の時にも、患者さんとご家族が自宅から出られないため、近所の方達が足りないものを運んでくれたりしたことが報道されました。

直接、医療機関にいかなければならない場合もあります。たとえば、怪我をした場合や医療機器が損壊して使えなくなった場合です。まずは、消防署に連絡することですが、地震などの大規模災害の場合には、かかりつけ医療機関や訪問看護と連絡を取り、救急車を手配してもらう方がよい場合があります。自家用車を利用する場合には、道路の状態の確認とともにどの医療機関に行くべきかなどを相談した上で行動してください。

5)医療・看護・介護

避難する際には、ご自分が飲んでいる薬がわかるお薬手帳は必携です。またご自分の診断名、日常生活の状態や看護・介護の状態を知らせるための情報用紙も携帯しましょう。都道府県や患者会などが「緊急医療手帳」として作成し、配布されているものがありますので、利用してください。しかし、患者さんご自身とご家族だけでは記載することが難しいことがあります。保健師さんや訪問看護師さんなどに手伝ってもらいましょう。そのほか、保険証、介護保険証なども合わせて緊急時持ち出し袋などに入れておくことも必要です。

6)人工呼吸器装着患者さんの電源確保対策

在宅人工呼吸療法中の患者さんの場合、電気が止まることは人工呼吸器が止まることにつながります。最近では、バッテリーを内蔵し外付けバッテリーも装着している呼吸器が基本となってきていますので、電気が止まるのと同時に呼吸器が止まることはありません。しかし、内部・外部バッテリーを合わせても、数時間で電源がなくなってしまいます。人工呼吸器を装着された方は、人工呼吸器取扱業者に作動時間を確認してください。

では、停電の際、人工呼吸器を装着している患者さん達はどうしたらいいのでしょうか?

電源が必要ない方法はアンビューバッグ®を使用した換気です。人の手で行うものですので、必ず備えておきましょう。ただ、経験がないと不安ですので、医師や看護師の指導の下で練習してください。

電源を確保するためには、家庭用電源、あるいは、内部・外部バッテリーに代わるものを準備しなければなりません。もっとも安全なのは、使用している人工呼吸器専用の外部バッテリーを2つ以上もち、交換・充電しながら使用することです。専用バッテリー以外に、バッテリーには、汎用のバッテリー、蓄電池、車載バッテリーなどがありますが、安全性の点から、専用バッテリーが推奨されます。しかし、どのバッテリーを使用しても、使い切ったものを充電しなければいずれ電源がなくなってしまいます。

停電などで、家庭用電源が使用できない場合、専用バッテリー等の充電に発動発電機を備えましょう。発動発電機のタイプにより、燃料はガソリン、カセットボンベ、プロパンガスなどがあります。それぞれの種類により、作動時間等が異なる点、また、発動発電機はメンテナンスが必要であることなど、注意が必要です。また、専用バッテリーの充電は、使える時間と同じくらいの時間がかかりますので、やはり専用バッテリーは2つ以上を保有し使い回しができるようにしておくことが推奨されます(表1、図1~3)。

表1 非常用電源の比較
  専用外部バッテリー 汎用バッテリー 蓄電池 車載バッテリー 発電機
利点
  • 人工呼吸器専用であるため、使用方法が簡便である
  • 汎用性がある
  • 入手しやすい
  • 通常の電源に接続しておくだけで、充電が可能
  • 無停電電源装置を内蔵している
  • インバーターとシガーライターケーブルを連結して、接続可能
  • 汎用性が高い
  • 燃料はガソリン、カセットボンベ、LPガスの選択が可能
課題
  • 経年劣化があるため、次第に使用時間が短縮する
  • 2台以上所有し、使い回しすることが必要
  • 経年劣化がある
  • 専用の充電器が必要
  • 価格、性能とも様々である
  • インバーターとシガーソケットが必要
  • 高価
  • 大きい
  • 自動車のエンジンを動かすため、騒音、排気などがでる
  • 自動車のエンジンを駆動するためのガソリンの確保が必要
  • 精密機器に対応している機種でも、直接人工呼吸器に接続することは推奨されていない
  • 定期的に駆動する必要がある
  • 燃料が必要
使用時間
  • 3~10時間
  • 8~12時間
  • 9~24時間
  • 自動車のガソリンの残量に依存
  • 燃料とその量に依存
価格
  • 1台は人工呼吸器指導管理料、人工呼吸器加算にふくまれるため、無料
  • 10万~20万円
  • 30万~100万円
  • シガーライターケーブルは2~3万円(機種ごとの純正品がある)
  • 10万~30万円

※カセットボンベ2本で約1時間、ガソリン2.1Lで約7時間、LPガス50Kgで110時間

図1 非常用電源あれこれ

非常用電源あれこれ

図2 停電がおこったら

停電がおこったら

図3 外部バッテリーの使い回し

外部バッテリーの使い回し

平成24年の診療報酬改定により、外部バッテリー1つを保有することが保険適用になりました。担当医や取扱業者等に外部バッテリーが設置されているかどうかお問い合わせください。また、外部バッテリーや発動発電機の購入に補助金制度のある都道府県がありますので、お住まいの市役所や町村役場、保健所等にお問い合わせください。

表2に自助のポイントを示しました。また、あきた病院 神経内科部長 和田千鶴先生作成の、「災害に備えるためのチェックリスト」を掲載しますのでご活用ください(図4)。

表2 自助のポイント
  • 自宅の安全の確保
    • 自宅の耐震診断と改修
    • 家具の固定、ガラスの破損防止など
    • 最低3日間、可能ならば、1週間程度の食料と水の確保
    • 情報収集のためのラジオなどの準備
    • 乾電池、ガソリンなどの備蓄と予備電源の確保
    • 家族間、訪問看護等との安否確認の連絡方法の確認
  • 避難に関すること
    • 避難する条件を設定
    • 避難場所、避難方法の確認
    • 避難のための移動手段と代替方法の確認
    • 災害時避難要支援者個別支援リストへの登録
    • 避難訓練の実施
  • 医療・看護・介護に関すること
    • 避難先で用いる緊急医療手帳への記載
    • 予備薬剤・衛生用品、医療機器の予備品などの備蓄と安全な収納場所の確保
    • 訪問看護、訪問介護、かかりつけ医療機関、保健所等との継続的な連絡方法の確認
    • 薬剤や医療機器メーカー、電力会社等との連絡方法の確認
  • 周囲の人たちとの連携
    • 日常的に支援者を確保し、災害時には近隣住民との連携を図る
    • 民生委員、防災委員への患者情報の提供(災害時避難要支援者個別支援リストへの登録)
図4 チェックリスト

あきた病院 神経内科部長 和田千鶴先生作成

チェックリスト

(原稿執筆 2017年2月)