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SCD・MSAの病型解説
SCDとは、運動失調を主な症状とした、小脳をはじめ脳幹や脊髄などの神経細胞がしだいに脱落する神経変性疾患の総称です。その原因は、まだ充分にはわかっていません。“総称”ということは、いくつかのタイプ(病型)があることを意味しており、遺伝性の有無や遺伝の形式、障害された神経系の種類、症状などによって分類されています。
SCDの病型の概念(分類の一例)
SCD
遺伝性の有無 |
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遺伝性SCD
遺伝形式 |
孤発性SCD(非遺伝性)
障害されている神経系の種類 |
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常染色体劣性遺伝性 |
常染色体優性遺伝性 |
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皮質性小脳萎縮症 |
多系統萎縮症(MSA)
主症状
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引用:「脊髄小脳変性症のすべて(第1版)」,日本プランニングセンター, p23, 2006
SCD・MSAの病型について
孤発性SCD(非遺伝性)
SCDの約70%を占める病型で、MSAもこのなかに含まれます。
<多系統委縮症(MSA)>
小脳を含む中枢神経の多系統に変性がみられ、孤発性SCDの多くを占めます。主な症状は以下のとおりです。
- 小脳症状:歩行時にふらつく、ろれつがまわらない、手足の運動失調 など
- パーキンソン症状:手足が震える、関節を動かしにくい など
- 自律神経症状:睡眠中の無呼吸、たちくらみ、いびき、排便障害 など
以前は、どの症状が強く現れるかにより「オリーブ橋小脳委縮症(小脳症状が強い)」、「線条体黒質変性症(パーキンソン症状が強い)」、「シャイ・ドレーガー症候群(自律神経症状が強い」に分類されていましたが、現在はいずれも病理学的に同じであることがわかったため、すべてを含めてMSAとしています。
<皮質性小脳委縮症>
小脳の中枢神経のみが変性し、小脳症状(運動失調)がみられます。単一の疾患ではなく、多くの疾患の総称と考えられています。
遺伝性SCD
SCD全体の約30%を占め、遺伝の形式により「常染色体優性遺伝性」と「常染色体劣性遺伝性」に分類されます。
<“常染色体”と“優性遺伝、劣性遺伝”>
- 常染色体:性別に関係ない染色体を指します。したがって、遺伝には性別が関係しないことを意味しています。
- 優性遺伝、劣性遺伝:遺伝子は2本が1組で、それぞれ1本ずつを両親から受け継ぎます。このとき、1本の遺伝子が伝える情報だけでも形質が遺伝することを“優性遺伝”、2本ともに同じ情報を伝えないと形質が遺伝しないことを“劣性遺伝”といいます。
つまり、片親の異常だけでも遺伝するのか、両親ともに異常でなければ遺伝しないのか、ということを意味します。
<常染色体優性遺伝性>
原因遺伝子がわかった順で、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)・・・などに分類され、ほかにも歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症が知られています。
<常染色体劣性遺伝性>
日本では非常にまれで、フリードライヒ失調症、ビタミンE単独欠乏性失調症、アプラタキシン欠損症、セナタキシン欠損症、シャルルヴォア-サグエ型痙性失調症などが知られています。
監修:国立精神・神経医療研究センター 理事長・総長 水澤英洋先生