SCD・MSAリハビリのツボ

リハビリテーションは、なぜ重要?

SCD・MSAの代表的な症状「運動失調」

SCD・MSAは、小脳や脳幹から脊髄にかけての神経組織がダメージを受け、だんだんと思ったように身体が動かせなくなる病気です。症状は多彩で、ダメージを受けた部位に応じてさまざまな異常が現れます。なかでも広くみられるのが、ふらつき、呂律(ろれつ)が回らない、字が書きにくいといった「運動失調」という症状で、小脳の機能が低下するために起こります。


放っておくと、日常生活にも支障が

脳のイメージ図

小脳は後頭部(大脳の後ろ下)にあり、視覚や感覚をもとに運動機能を調整し、身体をスムーズに動かす役割を担っています。私たちがまっすぐ立ち、安定して歩けるのは、小脳がうまくバランスをとっているからです。また、箸を使ったり、字を書くといった指先の細かな作業も、小脳の働きによります。

しかし、SCD・MSAで小脳がダメージを受けると、こうした機能が低下し、いろいろな運動失調が現れてきます。
典型的な症状の1つは、立ったり歩いたりする時のふらつきで、足を開いてバランスをとらないと立っていられなくなり、進行するにつれて、しだいに歩行が難しくなっていきます。
また、手や指、腕を思うように動かせないため、箸がうまく使えない、字が書きにくいなどの状況になります。 さらに、呂律が回らずに会話が聞き取りにくくなるなど、症状はさまざまで進み方はゆっくりですが、やがて食事をする、トイレにいく、風呂に入る、外出する、仕事をするなど日常生活全般に支障が出てきます。


運動失調への薬物療法には限界が

SCD・MSAの原因は不明で、根本的な治療法はありません。現在のところ、運動失調に対しては経口脊髄小脳変性症治療剤や甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)誘導体である脊髄小脳変性症治療剤の注射液による薬物療法が行われ、有効性が認められています。これらの薬剤には、身体の活動を高める甲状腺ホルモンの分泌を促進し、神経系の働きを活発にして運動失調を改善する作用があります。
とはいえ、こうした薬物療法の効果は限られており、運動失調は少しずつ進んでいきます。そこで、これを食い止めるために、薬物療法と並行してリハビリテーションを行うことが重要になってきます。


リハビリテーションで、普通の生活をより長く

イラスト

リハビリテーションは、感覚や動きのトレーニングによる日常生活の活動度(ADL)や生活の質(QOL)の維持と向上を目的としています。SCD・MSAの根本的な治療法ではありませんが、適切に行うことで症状を和らげ、身体の機能の低下を防ぎ、普通の社会生活を支障なく長く続けていくことが十分に可能となります。

また、なかには身体を動かさないため、廃用症候群と呼ばれるさまざまな障害を起こすケースがありますが、こうした症状も継続的なリハビリテーションにより改善できます。
SCD・MSAは原因が不明で進行性のため、途中でリハビリテーションをあきらめる方もおられます。しかし、「難病だからこそ」「進行性だからこそ」、それを少しでも遅らせるためにリハビリテーションが必要なのです。そのことを、ぜひ理解ください。

発行所:(株)日本プランニングセンター
2006年発行版の「脊髄小脳変性症のすべて」を元に作成