SCD・MSAリハビリのツボ
自宅でのリハビリテーションと目標
SCD・MSAの代表的な症状である運動失調は、症状の現れ方が病型や進行度によって違い、個人差もかなりあります。したがって、リハビリテーションは一人ひとりに応じたメニューを作り、進めていくことが大切です。ここでは、自宅でできる一般的なリハビリテーションと、そのポイントを紹介します。ただし、実際に行う場合は、かかりつけの医師や専門家の指導・アドバイスを受けてください。
重りや包帯の装着
腰と足に重りのついた
ベルトを装着したところ
手足に重りをつけたり、包帯を巻く方法です。理論的な裏づけはありませんが、経験的に運動失調の症状が軽減することが知られています1)。
具体的には、腕なら200〜400g、足なら300〜600g、腰なら1kgの重りのついたベルトを装着します。この状態で身体を動かすと、手足の感覚が強まり、動作が比較的スムーズに運びます。靴を工夫してかかとの部分を重くすると、歩行が安定するという方もいらっしゃいます。
また、手足の感覚を強めるという意味では、伸縮性のある包帯を太もも、腕、膝、肘などに強く巻きつける方法も効果的で、身体が動きやすくなります。
1)「脊髄小脳変性症のすべて(第1版)」, 日本プランニングセンター, p141-142, 2006
バランス機能を維持・向上させるための練習
運動失調は、日常生活の中ではバランス障害として現れることが少なくありません。このためバランスを維持・向上させるリハビリテーションも大切です。
具体的には、四つん這い、膝立ち位、立位など、わざとバランスの取りにくい姿勢を作ったり、重心移動の練習をします。これは、筋力のトレーニングにもなります。
起き上がり、立ち上がりの練習
寝た状態からは、
身体を横にして肘を立てて起きます
運動失調を生じると、起き上がるときに頭を上げると下肢も上がってしまい、うまく身体を起こせないことがよくあります。その改善には、起き上がるときに手すりにつかまったり足の反動をつけたりせず、横向きになって肘をたてて身体を起こすようにし、これを繰り返して練習します。
また、ベッドやトイレから立ち上がるとき、不安定な状態を短くしようと急いで動くため、バランスを崩すこともよくあります。立ち上がるときは、できるだけ物につかまらず、膝を十分に曲げ、身体を前に倒してお辞儀をするように立ちます。
一方、床から立ち上がるときは、四つ這いからではなく、まず片膝を立て、それからゆっくり立ち上がる動作を訓練します。ただし、やや難易度の高い方法ではあります。
ちなみに、SCD・MSAに罹っても筋力が衰えているわけではありません。小脳の機能が低下して、運動を記憶するプログラムが破損しているのです。破損したプログラムは元通りにはなりませんが、身体には新たな運動の記憶を植え付けることができます。そのため、起き上がりや立ち上がりの練習を毎日繰り返すことが大事になります。
床などからは、まず片膝を立てて、そのあとゆっくりと立ち上がります
座った状態からは、
上半身を前に倒し、
膝をよく曲げて立ちます
歩く練習
歩く練習のときの注意
膝を軽く曲げる、歩幅は狭く
まっすぐ歩けずにふらついてしまう「歩行障害」も、運動失調でよくみられる症状です。その改善のためには、肩の力を抜き、膝を軽く曲げ、歩幅を狭めて歩く方法を練習するようにします。ただし、転倒しそうなときには、そばにつかまるところがあるような場所で練習してください。
また、腕の運動機能も低下したときは、杖を使うと突く位置が不正確で、かえって転倒の危険が高くなります。
運動失調は、日常生活の中ではバランス障害として現れることが少なくありません。このためバランスを維持・向上させるリハビリテーションも大切です。
話す練習
運動失調では、次第に話すことも難しくなります。言葉が伝わらないというのは、想像以上に辛いものですから、話すためにリハビリテーションもとても大切なことです。
まず、自分の声をよくチェックしましょう。そして心がけることですが、姿勢を正すと話し方が明瞭になりますし、腹式呼吸で「あー」と発声しながら抑揚や高低をいろいろと試したり、話し方のスピードも自分に合ったものにすることも効果的です。
また、こうした発声などに加えて、聞き方や伝え方などのコミュニケーション方法を練習することも、大切なことです。
発行所:(株)日本プランニングセンター
2006年発行版の「脊髄小脳変性症のすべて」を元に作成