在宅医療アドバイス


専門職種各エキスパートからのアドバイス

食べることの楽しみを継続するためには

国立病院機構 箱根病院 神経筋・難病支援センター
栄養管理室長  二木 巨悦(ふたつぎ たかよし)様

大学卒業後、一般企業へ入社し営業業務を経験。その後、栄養士になるために専門学校へ入学し、平成12年 東京栄養食糧専門学校 栄養科卒業。平成12年から 国立精神神経センター国府台病院で勤務。平成14から 国立療養所箱根病院、平成18年から 国立成育医療センター、平成21年から 国立病院機構神奈川病院で勤務。平成25年から再び 国立病院機構箱根病院で勤務。現在に至る。


食事は日常生活の中で楽しみの一つであります。しかし、ムセることが多くなるとかなりの苦痛を伴うため、食事を楽しむことができなくなってしまいます。SCD・MSAの患者さんも同様に、嚥下障害の症状が出てくると食事に苦労することが多くなります。しかし、少しでも食べやすくムセにくい調理の工夫をすれば、食事を継続して楽しむことができます。そこで今回は、長く食事を楽しんでいただくためにはどのような食事の工夫が必要かということをご説明いたします。


嚥下障害の兆候と食事の工夫

まず、嚥下障害の兆候ですが、1)ムセることが多い、2)食後に痰がらみが多い、3)食事時間が長くなる、などが上げられます。そのような症状が出てくると、気管に食べものが入る「誤嚥」のリスクが高くなり、細菌が気管に入ることで「誤嚥性肺炎」を起こしてしまいます。また、食べる量が減ってくると低栄養になり「床ずれ(褥瘡)」を作ってしまうリスクも高まります。つまり、嚥下障害の兆候が出てきた時点で、食事の工夫をする必要があるということになります。食事の工夫とは大きく分けて1)食べやすくする工夫、2)飲み込みやすくする工夫、になります。

まず、1)の食べやすくする工夫は主に口腔内のことで、噛みやすくまとめやすい形や硬さにします。そこで、野菜は下処理の段階で小さく薄くスライスします。大きな乱切りなどの野菜では噛むのに一苦労でまとめるのが難しくなります。また、薄くスライスすることで調理時間の短縮にもつながります。また、よく煮込むことで食材を柔らかくすると噛みやすくなります。生野菜は噛むとばらけやすくまとめにくいので、火を入れて煮込む方が食べやすくなります。

次に2)の飲み込みやすくする工夫ですが、飲み込みにくい形状のサラサラ、パサパサ、ボロボロ、モサモサ、ペラペラする食材には手を加えることが必要です。サラサラする汁物やお茶などの液体は、ゆるいトロミをつけることで誤嚥を防止できます。パンや脂身の少ない肉や魚などのパサパサするもの、挽肉などのボロボロするもの、さつま芋や南瓜などの芋類のモサモサするものはたっぷりと水分を含めて、トロミあんでまとめるなどすると飲み込みやすくなります。焼きのりなどペラペラするものは上顎に張り付いてしまうため、海苔の佃煮に代えると飲み込みやすくなります。以上のような食事の工夫で食べやすく飲み込みやすくなるため、美味しい食事を楽しむことにもつながります。


表 飲み込みやすくする工夫
形状 食品 工夫ポイント
サラサラ 汁物、お茶 ゆるいトロミをつける
パサパサ パン、脂身の少ない肉や魚 たっぷりと水分を含めて、
トロミあんでまとめる
ボロボロ 挽肉 たっぷりと水分を含めて、
トロミあんでまとめる
モサモサ さつま芋や南瓜などの芋類 たっぷりと水分を含めて、
トロミあんでまとめる
ペラペラ 焼きのり 海苔の佃煮に代える

栄養バランスについて

次に、栄養バランスについてですが、偏りなく必要な栄養素を十分に摂取できるように心掛けます。そのためには、3大栄養素である糖質、たんぱく質、脂質を毎食摂取できるようにします。糖質はごはんやおかゆとして、たんぱく質は肉や魚、卵や大豆製品で、脂質はバターや炒め油などを利用します。具体的にはチャーハンやリゾット、おじやなどにすると1品でバランスよく摂取できます。何品も用意することが決してバランスのいい食事というわけではありません。1品でもその中に3大栄養素がバランスよく含まれていれば十分といえます。料理を作るご家族の方が負担なく継続できることが患者さんの栄養状態維持につながります。

最後に、食事は安全に楽しく食べていただくことが最も重要であります。以上のような食事の工夫を行っていただくことで、患者さんの在宅でのQOL向上にもつながります。

(原稿執筆 2016年7月)