在宅医療アドバイス


専門職種各エキスパートからのアドバイス

SCD・MSA患者さんに対する保健師の役割

東京医療保健大学 看護学科 地域看護学領域 非常勤
保健師  田中 ひろ子様

1982年 帯広高等看護学院保健婦科卒業後、1983年に東京都福祉保健局に入局。
2002年に中央大学大学院法学研究科国際企業関係法専攻博士前期課程を修了し、2008年より東京都難病相談・支援センター支援員として活動。2013年より東京医療保健大学 看護学科 地域看護学領域 非常勤として、現在に至る。


保健師ってどのようなことをするの?

保健所や市町村の保健福祉部門に所属する保健師は、患者さんやそのご家族が病気や障害があっても住みなれた地域で安心して療養生活が送れるよう、全身状態の維持と生活の質(QOL)の保持に関する支援を行います。
支援方法としては、難病医療費助成の申請時の面接相談家庭訪問電話相談などにより病状や療養状況など、患者さんが置かれている状況に応じて生活実態に即した支援を行います。具体的には、病気と上手につき合う方法や患者さん、ご家族が病気の経過についての見通しに対する思いを出し合い、よりよい生活設計が立てられるよう相談を受けることや※1社会資源の活用などの個別的支援を中心に行います。さらに多様な問題解決のヒントが得られるように患者さん同士、ご家族同士の交流や情報交換会の開催、既存の患者会の紹介を行うほか、医療相談会、講演会、学習会を開催します。また病状に合わせて患者さん、ご家族の考えを尊重しながら※2、専門医療機関の専門医・看護師や訪問看護師、福祉関係者など他の職種や機関と連携して療養を支える環境づくりを行います。


※1 社会資源:人材、施設、公的支援制度(難病施策、社会福祉制度、経済的支援)など、症状の進行に合わせてサービスを利用します。その都度、必要な医療、福祉制度、介護保険を利用して患者さんの療養をしやすくし、ご家族の介護負担を軽減します(図2参照)。

※2 主な関係機関は、専門医療機関の専門医・看護師・ソーシャルワーカー、かかりつけ医、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、地域包括支援センター、福祉事務所


図1 保健師の支援


図2 症状と生活の変化と支援体制のイメージ

東京都医学総合研究所 難病ケア看護研究室作成 療養経過表 東京都難病セミナー保健師コース2011年 改変

*1 レスパイト入院:患者さんの介護にあたっているご家族が一時的に休息をとるために患者さんが数週間入院すること。
*2 患者会:NPO法人全国SCD・MSA友の会、地域の友の会等
※上記サイト名をクリックすると外部サイト「特定非営利活動法人 全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会のホームページ」へ移動します。


≪ワンポイントアドバイス≫

保健所(保健福祉事務所)には難病の相談を受ける保健師がいます。SCD・MSAと診断されたら、まず最寄りの保健所に相談しましょう。保健師は、患者さんとご家族を支援する制度と申請の手続きの説明や健康状態の観察、日常の介護の仕方のアドバイスをします。
特に病状が進行し、療養上の生活に工夫が必要な場合、必要なサービスを適切かつ効果的に使用できるよう主治医や訪問看護師、専門医療機関、行政・福祉関係機関などとの連携によりケアチームの調整を行い、療養を支える環境を整えるお手伝いをします。


療養生活の変化に合わせた支援体制の活用と工夫

症状の進行状況には個人差がありますが、症状が進行すると歩くこと(ふらつきなどの運動機能障害)、自力で食べること(食べ物が飲み込めなくなる嚥下障害や誤嚥など)、話すこと(舌がもつれる、発音が不明瞭になる構音障害など)や排泄など、身の回りのことが少しずつ難しくなってきます。症状の進行の程度に応じて生活の環境を整えることで、患者さんの思いが尊重された生活を送ることができます(図2 病状と生活の変化と支援体制イメージ参照)。


初期(ADL(日常生活動作)の維持):

手足にうまく力が入らない、ふらつき歩きにくいなど、今までどおりの生活がつらいと感じるようになります。ふらつきによる転倒では手が出ないこともあり骨折することもあります。骨折をきっかけに寝たきりにならないために転倒防止はとても重要です。住居に手すりを付けたり、動作を補う杖や装具を活用して安定した歩行を保つようにしましょう。また日頃から定期的に体を動かし、筋力の低下や関節の動きの制限を防ぐこと、食事を楽しむことは身体機能の維持に有用で、精神的な満足感を得ることができるとの報告があります。

中期(生活環境の整備):

症状が進行してくると手がうまく使えなくなるため着替えや歯磨きなど、日常生活の動作に時間がかかるようになります。施設サービスやヘルパーなどの社会資源を活用して、ご本人とご家族が無理せずに生活できる環境づくりが必要になります。また、歩くことが難しくなってきたら車いすの使用を考えます。家の中で車いすを使う場合は、車いすで動き回れるように屋内の環境を整えることが必要です。

後期(コミュニケーションとベッド周辺の環境整備):

すべてのADL・起居動作・移動動作に介助が必要な時期となってきます。車いすや電動ベッド、リフターなどの福祉用具を上手に活用して、介護しやすい環境をつくりましょう。さらには介護者の休息のためにレスパイト入院の活用も考えます。また、構音障害により思うように話せないもどかしさから話すことをためらうことや、手の震えや眼振等によりイエス、ノーもはっきり伝えることが難しくなることもあります。患者さんご本人の意思を確認することが大切です。


その他

  • 病状悪化の緊急連絡時に備えて、緊急連絡先一覧の常備(ご家族、かかりつけ医、訪問看護ステーション等)と対応について関係者と共通理解しておくことが大切です。
  • 災害時のサポート体制についても確認しておきましょう。

参考文献
  • 標準保健師講座3 対象別公衆衛生看護活動、第3版 医学書院、2014年
  • 神経難病療養者への援助のポイント、東京都多摩小平保健所、2007年
  • 東京都難病セミナー保健師コース講義資料、2011年
  • 難病と在宅ケア 20巻9号、日本プランニングセンター、2014年

(原稿執筆 2016年7月)